韓国の女性作家ハン・ガンがノーベル文学賞を取りました。韓国人としては初めて、女性としても18人目とのこと。
受賞理由は、「ハン・ガン氏の力強く詩的な散文体の文章は歴史的な心の傷と向き合いつつ、人間のもろさをあらわにしている。彼女はすべての作品を通して、心と体や、生と死の関係についてユニークな意識を持っていてそれゆえに、彼女の詩的で実験的な文体は現代の散文文学における革新的存在といえる」というものです。
日本でも彼女の本は多く訳されていて、私も、この受賞を知ってから『すべての、白いものたちの』を日本語で読みました。
この本は、個人的な出来事と歴史的な出来事が重ね合わせられ、詩的な散文で書かれていることに特徴があります。
私、彼女、全ての白いものたちのという3章で構成されています。そして、この作品は名前の通り、産着、霧、ろうそくといった白い色のものをとりあげ、それにまつわる様々なことが書かれている短い断章がつらなっている構成になっています。
語り手の姉が生後すぐに亡くなっており、仮に無事生まれていれば、妹である語り手は生まれることがなかったかもしれません。つまり、語り手の生は、姉の死の上にあると言えます。
また、この本はポーランドの首都であるワルシャワに滞在した時に書かれています。ワルシャワはヒトラーの指示により街の95%以上が破壊され、戦後に再建された都市だということです。つまり、ワルシャワも、また、昔のワルシャワの破壊の上にあると言えます。
また、彼女がワルシャワに滞在した理由も興味深いものがあります。彼女は、『少年が来る』という本を書き終えたあとに、しばらく休みを取ろうと考え、知り合いの翻訳者かいるワルシャワに向かったとのこと。
ちなみに、この『少年がくる』という小説は光州事件を題材にしているとのこと。光州事件は、1980年に民主化を求める市民を韓国軍が殺害したというものです。現在の韓国も、過去の死者の上に存在していると言えるかもしれません。私は、この本をまだ読んだことがないので、読んでみたいと思っています。
この『すべての、白いものたちの』は、過去の喪失の上にある現在の生活を、非常に詩的な散文で書いていると思います。
総じて言えば、韓国と日本は文化的にも似ていると思います。しかし、私は、韓国の作家が歴史や社会に関わろうとしていることに驚き、韓国の文学の力強さに驚きました。これからも継続して韓国の文学を読んでいきたいと思います。